ダイビングを行う上で最も注意しなければならない事と聞かれたら皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
サメなどの海洋生物に襲われる事でしょうか。
それとも海での遭難(ロスト)でしょうか。
もちろんそれらも注意が必要です
ですが、私が最も注意しなければならないと思うことは「減圧症」です。
「ダイビングでよく聞く減圧症って何?」
「減圧症ってどんな病気なの?どんな症状があるの?」
「減圧症を予防する為にも減圧症について詳しく知りたい」
そんな方に向けて今回はダイビングを行う上で最も大切な知識「減圧症」ついて解説していこうと思います。
減圧症とは
「減圧症とは、ダイビング中に圧縮された空気を吸うことで体内に窒素が溜まり、急な浮上によって体外へ排出されなかった窒素が体内で気体となり、意識障害や臓器障害が起きる病気のことです。」
「圧縮されら空気?体外へ排出?気体になる?」
と意味不明な言葉がたくさん出てきたと思いますが、1つずつ説明して行きます
気圧について
減圧症を理解するために、軽く気圧について説明して行きます
気圧とは簡単に言えば空気の重さです。
私たちの普段生活している陸上は1気圧であり、何も感じることはありませんし、特に体にも影響はありません。
よく登山をすると「空気が薄い」とか「袋がパンパンになった」と聞きますよね
これは、高所に行ったことで辺りが低気圧になり、空気(酸素、窒素濃度)が薄くなっていることを意味しています。
高所では空気が薄くなる、では逆はどうなるでしょうか
”低所”つまり海中などの深度が深いところでは高気圧となり、空気が圧縮され空気(酸素、窒素濃度)が濃くなります。
「海中で吸う空気は高気圧で圧縮されて濃度が濃い」
とだけ簡単に覚えて置きましょう!
窒素の蓄積
海中で吸う空気は濃いと理解したところで、次にダイビング中に起きていることを説明して行きます。
ダイビング中、私たちは活動するために酸素タンクから呼吸をし続けます。
酸素タンクの中には普段私たちが吸っている空気(酸素、窒素)が入っています。
酸素は体を動かすために消費され、代わりに二酸化炭素を吐き出します
ですが窒素は生理不活性ガスと言われ、体内で処理されることはありません。
高気圧で体内に入ってきた窒素は血管を移動している際に徐々に体内に溶け込んでいきます。
通常であれば、浮上すると同時に呼吸を通じて窒素が体内から体外へ徐々に排出されます。
ですが、急な浮上をしてしまった場合は窒素の排出が追いつきません。
体内の窒素が体外へ十分排出されず、体内に残った窒素は気圧の変化によって気体化してしまうのです。
気体化した窒素は血液を固まらせて、血栓を産み出し、血液循環を乱し、体内の臓器に障害を起こしてしまいます。
これが減圧症であり、身体に様々な症状を引き起こします。
もう一度冒頭の「減圧症とは」を振り返ってみましょう
「減圧症とは、ダイビング中に圧縮された空気を吸うことで体内に窒素が溜まり、急な浮上によって体外へ排出されなかった窒素が体内で気体となり、意識障害や臓器障害が起きる病気のことです。」
どうでしょうか、記事を読む前より減圧症についての理解が深まったと思います。
もう少し詳しく減圧症について解説してきます
血液を通って窒素は体内の臓器や血管に溶け込み、逆に血液を通って肺まで運ばれ体外に排出されます。
なので、血流量の多い組織(臓器や血管)は窒素が溶け込みやすく、排出しやすい
血流量の少ない組織(骨や脂肪)は窒素が溜まりにくいが、排出しづらいことになります。
この血流量の少ない組織に窒素が溜まり過ぎてしまうのが最も危険です。
長時間深場をダイビングする(箱型ダイビング)やダイビング後半に深場に行く(リバース潜水)を行うと血液量の少ない組織に溜まった窒素が排出できずに減圧症の発生リスクが大きくなります。
減圧症が重症化しやすい要因は血流量の少ない組織に窒素が溜まり過ぎてしまった場合である事も覚えて置きましょう
次に減圧症の具体的な症状、発生要因、予防、治療について解説して行きます。
減圧症の症状
減圧症は体内に出来た血栓が原因で体全身に様々な症状を引き起こします。
窒素の排出が十分でないとダイビング後1〜6時間以内に90%の確率で減圧症の症状が出現します。
減圧症の症状は重症度によって分けられています。
減圧症1型(比較的軽症)
症状:掻痒感、皮膚の発赤、浮腫、関節痛
1型は筋骨格系に影響を及ぼします。
生命を脅かすほどの症状はありませんが、重症化の前兆とも考えられるので直ちに受診する必要があります。
減圧症2型(比較的重症)
症状:知覚障害、運動障害、意識障害、けいれん、胸痛、めまい など
神経や臓器にまで影響を及ぼしている状態です。
神経系が侵されるとチクチクとした痛みや痺れが現れ、麻痺が進行して行きます。
脳まで侵されてしまうと頭痛、めまい、重症だと意識障害にまで至ってしまいます。
発生要因と予防法
急な浮上
減圧症の最大の原因です。
ダイビング中に圧縮された空気を吸って体内に溜まってしまった窒素が、急な浮上によって十分に体外へ排出されないと気泡化してしまいます。
急な浮上をしない為にもダイバーコンピューターに従って深度を上げていく必要があります。
ダイバーコンピューターを持っていない方はダイビング中はインストラクターと出来るだけ同じ深度(高さ)で泳ぐことを意識しましょう。
安全な浮上速度は18m/分と言われています。
浮上速度が速い場合にはダイバーコンピューターから「ピピピ」と警報音が出るので速度を抑えましょう。
目安としては自分が吐いた泡の最も小さい泡を追い越さない程度の速度で浮上することが推奨されています。
それと大切なのは安全停止!
ダイビングを終える直前に深度3〜5m付近で3分程度待機することを安全停止と呼びます。
減圧症を予防する為に、浅い水深で窒素を吐き出してから浮上します。
ビーチダイビングの場合は、ダイビング終盤で安全停止を兼ねて、浅場を散策して窒素を吐き出して、そのまま浮上する事もあります。
ボートダイビングの場合は、ボートから出ているロープに捕まり、安全停止をしてから浮上することが多いです。
予防法
・ダイビング終了直前に浅場の散策や安全停止を行う
・ダイバーコンピューターに従って浮上する
・ダイバーコンピューターを持っていない方はインストラクターと出来るだけ同じ深度(高さ)でダイビングする
・浮上速度は18m/分 吐き出した泡を追い越さない程度で
ダイバーコンピューターに関してはこちらの記事で解説しています↓
高所の移動
ダイビングが終わった後も油断してはいけません。
ダイビング後も体内にはある程度窒素が残っている状態です。
その状態で飛行機に乗るのはもちろん、山道を車で移動するも減圧症発症のリスクが高くなります。
飛行機はダイビング後24時間は乗らないようにし、車での移動もダイビング後3時間は休憩してから行うようにしましょう。
ダイビング後は、現地の食事を楽しんだり、観光したりとしっかり休息を取ってから帰るようにしましょう。
旅行先でダイビングをする際にはダイビング時間とフライト時間を調整する必要があります。
大体リゾート地のインストラクターが何時にフライトなのか確認してくれて、ダイビングの時間、本数を調整してくれるのでフライト時間もインストラクターに伝えて置きましょう!
予防法
・ダイビング後は車なら3時間、飛行機なら24時間以上の休息を取りましょう
・フライト時間をインストラクターに伝え、ダイビング時間を調整する
脱水
ダイビング中は冷たい海の中ですが、必ず汗を掻いています。
水分が不足していると血流量が下がり、窒素の排出がスムーズに行えなくなってしまいます。
ダイビング前後には必ず水分補給を欠かさずに行いましょう
予防法
・水筒やペットボトルを持参し、すぐに水分補給できるようにして置きましょう
・喉が渇いたと感じる前に水分補給して置きましょう
激しい運動
ダイビング中の無理な運動は血流量を増加させ、窒素が体内に溶け込みやすくなってしまいます。
また、浅い呼吸を繰り返すことで窒素の排出も十分に行えなくなってしまいます
ダイビング中は無理な運動はせずに落ち着いた呼吸をするように意識しましょう
予防法
・ダイビング中に疲労してしまった場合はインストラクターに伝え、休息を取りましょう
・ゆっくり呼吸するように意識しましょう
飲酒
飲酒は心拍数を上げ、窒素を体内に溶け込みやすくしたり、利尿作用から脱水状態にもつながってしまうため、ダイビング前後は禁止されています。
冷静な判断の妨げになってしまうため、ダイビング前後の飲酒は絶対に控えましょう
肥満
過度な肥満は減圧症のリスクを高めてしまいます。
脂肪は血流量の少ない組織であり、一度窒素が脂肪に溶け込んでしまうと窒素を排出するのに時間がかかります。
高齢
高齢な方だと血流量が減少し、窒素の排出が遅れてしまうことがあります。
ダイビングインストラクターが年齢を考慮し、ダイビング時間を調整してくれるはずなのでインストラクターに従ってダイビングして行きましょう
治療法
救急処置として100%の純酸素を吸い、血栓から起きる低酸素状態を防ぐ処置を行います。
低酸素状態を防ぐことで後遺症が残る可能性を減らすことができます。
減圧症は自然治癒することはありません
仮に減圧症になってしまったら直ちに病院へ行きましょう。
治療には高圧酸素療法を行います
巨大なカプセル内に入り、高圧化で酸素を吸引し、窒素を吐き出す治療です。
高圧化になることで海中と同じ環境を作り出し、気体化した窒素を血液に戻し、窒素のを排出することを目的に行います。
減圧症唯一の治療法であり、大型の病院、大学病院にしか治療装置が設置してないことがあるので注意が必要です。
おわりに
今回は減圧症について解説していきました。
安全停止やダイビングを行う上での注意点の大半は減圧症を予防することを目的としています。
それほど、ダイビングと減圧症の関係性は深く、ダイバーが最も注意しなければならない事だと思います。
メカニズムや注意点、症状などを事前に知っておくと予防や対処が素早くできるのでしっかりと覚えて置きましょう!
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